マイナス

モーニング掲載の『はるか17』を描いている山崎女史がかなり前に別の雑誌で描いていた漫画。
自分自身を守るため、他人にどう見られているかを一番気にする主人公の女性が、従順に周囲の言いなりになっているだけでは自分を保てずにやがて周囲を操り貶めていく過程をライトな語り口で描いていく怪作。
その中で一番衝撃的なシーンに、主人公と同僚(うろおぼえ、生徒だったかも?)の女性と、幼子が山中で行き倒れになりかける一幕がある。
体力のない幼子は途中で死んでしまい、空腹を覚えた主人公は死んだ幼子を木の枝にくくりつけてバーベキューにしようとする。
唖然とした女性たちは止めようとするが、周囲に人がいない状況で主人公は何に対しても呵責を覚えはしない。
こんがりと焼き上がった幼子の肉を、主人公は当然のようにむさぼり食い、女性たちも空腹に耐えかねて食べ始める。
飲み物ないかしらねー、とあたりを見回す主人公、幼子にごめんねと涙を流してあやまりながら食べている女性、あ、これ美味い、と眼をみはっている女性。
その一コマにすさまじいインパクトを受けた。
そして、これが単なる悲劇で終わらないのは、次のページであっさりと舗装された道路にたどりついた点。
なーんだ、すぐそばに道あったんじゃん、と安堵する主人公と、その傍らで、幼子を食べてしまった罪悪感に打ちひしがれる女性たちの対比が何とも言えない皮肉になっていて、面白い。

その後、主人公はどんどんパワーアップしていく。殺人まで平気でやらかし、被害者の葬式に何食わぬ顔で出席して、その場で遺影を見ながら満足げに自慰にふけるシーンまで出てくる。
これはどこまで行ってくれるのかと当時はわくわくしながら読んでいたのだが、後半になると何だか雲行きがあやしくなり、主人公を理解しようという生徒が現れたりして(この手の話で主人公を理解するキャラは最大の敵だろう)古めかしいおためごかしのすえに主人公が改心して終わる、という、そこだけが個人的には残念な作品。
そこまでやらかしておいて、そのエンディングはねえよ、と考えてしまうのは趣味が悪いのだろうか。
だいぶ前の漫画なので、単行本はあまり売ってないかもしれない。
それに、単行本では上記の人肉食シーンはカットされたとかな話を聞いた。
思えば不遇な作品だが、面白いので、どこかで見かけたおりには一度おためしください。